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この度、10周年記念プロジェクトの一環として実施した、ビジネスチャット「Chatwork」のリブランディングを記念して、Chatwork株式会社の代表取締役CEOの山本正喜と、プロジェクトを一緒に推進したLANDOR & FITCHのゼネラル・マネージャー兼エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターの大島由久様との対談が実現しました。
「Chatwork」のリブランディングに至った背景や、現代のブランドのトレンドの変化、IT業界のブランディングの印象、実際に「Chatwork」のリブランディグをする上で意識したことなどお話を伺いました。
SPEAKERS
CHAPTER.1
ビジネスチャット
「Chatwork」のリブランディング
ー 早速ですが、山本さんと大島様の自己紹介を簡単にお願いします。
山本 - Chatworkの代表取締役CEOの山本正喜と申します。もともとChatworkという会社は2000年創業でして、兄弟で学生起業したというところがスタートになります。私は初めは社長ではなく、兄がCEOをしていて、私はCTOというところでエンジニアとして会社に携わったのがスタートです。「Chatwork」は2011年3月にリリースしてますが、私の方で企画をして、プログラムを書いて、それがどんどん大きくなっていき、社名にもなって、上場もさせていただく中で、私自身が社長をやった方がいいということで、3年ほど前に社長をさせていただき、現在はプロダクトだけではなく、全社の事業であったり、コーポレートも統括してCEOをしております。
大島様(以下、敬称略、大島) - 初めまして、LANDOR & FITCHのゼネラル・マネージャー兼エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターの大島と申します。ゼネラル・マネージャーとして会社運営を行いながら、プロジェクト全体を統括していく役割を担っています。LANDOR & FITCHは、ブランディングに特化した会社で、創業者の名前であるウォルター・ランドーとロドニー・フィッチ、2人の名前でLANDOR & FITCHとなっています。
TOPIC.1
「Chatwork」の
リブランディングに至った背景
ー ブランディングに特化した会社に協力を仰いで「Chatwork」をリブランディングするに至った背景について説明してください。
山本 -「Chatwork」は2021年3月で10周年。2011年3月1日にリリースをしたんですけど、その段階ではビジネスチャットは世の中になくて、我々がたぶん(ほぼ)世界で1番最初の事業者だと思うんですけど、ビジネスチャットってだけで新しかったんですよね。メールの代わりにとか、次世代のコミュニケーションというところが革命的みたいなところで推してはいたんですけど、10年経って、ビジネスチャットという市場ができて、我々も上場させていただくというところで、これから(ビジネスチャットが)どんどん当たり前になっていくというものになってきました。
その中で、我々としては国内利用者数No.1*として、ビジネスチャットのパイオニアではあるけれども、これから先ビジネスチャットとしてどういう世界を作っていきたいかというところがあります。それはユーザーの皆さまにとってもそうですし、会社としても発信していく必要があるだろうなと思いまして、「Chatwork」が目指す世界を表現するためにブランディングというものを考えていきたいなというところが今回ブランド戦略を10周年に合わせて今大きく進めているような背景です。
*Nielsen NetView および Nielsen Mobile NetView 2020年6月度調べ月次利用者(MAU:Monthly Active User)調査。調査対象44サービスはChatwork株式会社にて選定。
TOPIC.2
現代のブランドのトレンドの変化
ー 現在はコロナ禍などもあり、ブランドのトレンドのあり方が少しずつ変化していると思いますが、その辺りの変化についてはどのように見ていますか。
大島 - ブランディングという言葉に変わりありませんが、サービス内容は大きく変わってきています。もともとCIという言葉に象徴された時代は、コーポレート・アイデンティティということで、理念策定や会社のマークを開発することに脚光が当たっていました。そこからバブル経済を追い風に日本企業の海外進出が盛んになってくると、海外進出するためにどのようにブランディングに取り組むべきかが大きな課題となり、そのためのサポートが大きな流れとしてありました。
そこからある程度年月が経つと、海外に進出したのはいいが実はなかなか海外オフィスとの連携がうまく取れていない、ブランド表現に一貫性がないなどの課題が浮かび上がり、それらを解決するための仕事が増えていきました。
そして近年になると、課題意識はより従業員に向けられていきます。皆さんの記憶にもあると思いますが、従業員の態度が悪く、それが映像や記録として残りSNSなどによって拡散され、ブランドイメージの毀損が起きる事例があとを断ちません。逆もまた然りです。それらのことから、従業員に対していかにブランドを理解し、ブランドが大切にすべき信条に基づき行動できるかが鍵と認識され、ブランディングにおけるブランド浸透プログラムの締める割合が大きくなっていきました。
その流れに大きく加速をかけたのが新型コロナウイルスによるパンデミックです。在宅勤務により会社の「場」によるつながりが急速に弱まる中、いかにブランドに愛着を持ってもらい、また求心力を確かなものにするか、我々は「ブランドエンゲージメント」という言葉を使っていますが、ブランドに対するエンゲージメントが非常に重要になっています。それが従業員に対してだけではなく、社会にまで拡がりをみせています。デジタルの進化に伴い双方向性が強まることで、コミュニティをどのように形成していくかが大きな流れとしてあります。
TOPIC.3
IT業界のブランディングの印象
ー IT業界のブランドやブランディングについてどのような印象を持っていますか。
大島 - IT業界では、「ユーザーエクスペリエンス」という言葉が早くから盛んに使われていると思います。それに対して我々は「ブランドエクスペリエンス」という考え方に重きを置いています。この2つの異なる価値観をいかにクロスして成功に導くかが他の業界に比べてよりチャレンジングな点としてあります。
具体的に説明すると、ユーザーエクスペリエンスは使い勝手などの効率性や機能的な価値が言葉の意味合いの中にあると思います。たとえばコーヒーを購入する際に、ユーザーエクスペリエンスの視点だと、注文してそれが待たずにすぐに出てきて美味しいコーヒーが飲めるという一連の流れがあります。それに対してブランドエクスペリエンスに比重を置いた場合、たとえばブルーボトルコーヒーは注文してから待たせることにも意味がある。待っている間にドリップしている様子を見てもらい、香りなど体験してもらう。待たせることをあえて大事にしていると言えます。ブランドにとって大切にすべきポイントをいかに機能的な部分と適切に組み合わせていくかが大切なのです。その中で、IT業界は媒体特性上から機能性に重きをおく傾向があると思います。その分、機動力があり圧倒されることが多いですが(笑)。
山本 - IT業界が難しいのは無形物を扱ってるというかデジタルのデータで物事が動く世界だったりするので、さっき仰っていたようなわかりやすさや使い勝手とかに目が行きがちで。
デジタルの世界においてのブランドってどうなのかってところが今ITが成熟してきた中で、何ができるかよりもブランド価値に目を向けられる時代になってきたんじゃないかなと感じます。
TOPIC.4
LANDOR & FITCHに依頼した背景や理由
ー 今回のリブランディングに伴い、LANDOR & FITCHに依頼した背景や理由を教えてください。
山本 - もともとブランドをやろうとしていたところはありました。初めはどうやるかわからなかったんで、私とデザイナーの2人で本を読んだり勉強はしていたんですけど、理論は本で読んでわかるんですけど、それをタグライン作りましょうとか、ブランドコアを作りましょうとか、それをフレームワークに則って、自分たちでやったはいいんですけど、それをどう他のマーケティングや他の広報とかを含めたプロセスに落としていくかというところの肌感がなさすぎて、これは全社に展開していくのはすごく試行錯誤が必要だなと(感じました)。
あと、Chatworkの難しいところとしては、「Chatwork」というプロダクトがあり、かつ社名もChatworkという会社で、会社としてのChatworkのブランディングと、プロダクトとしての「Chatwork」のブランディング。いろんなブランディングがある中で、統合的なブランドが形成されると思って、その辺りを考えていくのが素人だと無理だなと思いました。
(そこで、)統合的なブランド戦略を担っている会社さんに入ってもらい、我々も学ばせていただきながら、自分たちの血肉にしながらしっかりやっていかなきゃいかないというところと、ブランディングは外に見せるものだけじゃなくて、中から出てくるインナーブランディングがないと社員の振る舞いとか、制作物そのものにブランドって乗ってくるので、そういうところが必要だというのが私も同じような考え方でいます。
(このような背景で)社内のブランディングも合わせて見られる会社を探していて、いろいろなブランディングやデザイン会社さんのお話を聞かせていただきました。LANDOR & FITCHは、その辺のインナーブランディングの話であったり、かつブランドのところをアウトソースするというよりかは、我々社内のチームを一緒に育てていただけるところにフォーカスされていらっしゃったところがすごく良いと思いました。外のデザイン会社さんに頼らないとブランドができないとなると、それって自分たちの血肉になってないってことなので、そこの考え方がすごくいいなと思ってLANDOR & FITCHに依頼させていただきました。
CHAPTER.2
「Chatworkらしさ」を
取り入れたブランドコンセプト
TOPIC.1
LANDOR & FITCHから見た「Chatwork」の印象
ー 最初の「Chatwork」に対する印象について聞かせてください。
大島 - お話をいただいて、私自身の話になりますが、「Chatwork」という名前は知っているものの、実際に利用していなかったので、Webサイトを拝見させていただいたのが最初でした。
サイトに企業サイトとプロダクトサイトの2つありますが、最初に見たプロダクトサイトでまず感じたのがChatwork「らしさ」って何だろうという点でした。機能とサービスはとても良くわかるのですが、目を閉じた時に心の中にブランドイメージが浮かび上がってくるかと言えば、そうではありませんでした。ビジュアル的な側面になるかもしれませんが、「らしさ」に関しては課題があると感じました。
TOPIC.2
LANDOR & FITCHの提案の印象
ー LANDOR & FITCHとのコミュニケーションの取りやすさはどうでしたか。
山本 - 初めてプレゼンテーションを受けた場は、ブランドコンセプトのアイデアだったんですけど、プロの仕事を見せていただいて、めちゃくちゃ感動したんですよね。非常にロジックが綺麗というか。私はプロダクトの人間なので、良いプロダクトって良いコンセプトから生まれると思うので、そこがすごく大事なんですよね。そこの考え方のコアなところをしっかりと説明していただいた上で、提案の方向性を何案か出していただいたんですけど、どれも良いなあと感じましたし、どれか選ぶならそっち側の方向性にいくという非常に重要な意思決定をするところに緊張感を感じました。それぞれのコンセプトに込められている想いとか世界観とか感じられて、楽しみとどんなブランドのイメージになっていくんだろうとワクワクしたことを覚えています。
TOPIC.3
ブランドのコンセプト策定で
意識したこと
ー 今回、ブランドのコンセプト策定においてはどのようなことを意識しましたか。
大島 - ブランドコンセプトは、しっかり押さえないといけないポイントですので、コンセプト自体が明快でなければいけない。さらには分かりやすさだけではなく、ブランド「らしさ」ですね。強いブランドにするためには、独自性とターゲットに対する適切性があるので、この2つを外さないこと。情緒的に偏ることなく、2つのバランスを取りながら共感できるものに仕上げていくこと。それらを念頭にコンセプトを開発し、最終的にはコンセプトが額縁に入れた飾りとしてではなく、血肉として使っていただけるものにすることを大切にしていました。
TOPIC.4
コンセプト開発する際の
独自のフレームワークとは
ー ブランドコンセプトを開発するときに使う独自のフレームワークについて説明してください。
大島 - 我々がブランドを創る時、人に例えると分かりやすいと考えています。人にたとえた場合、その人がどんな志を持っているのか。自分がこの世になぜ生まれて、これから何を成していきたいのか、そこをしっかりと定義すること。その定義した志というものを持った人が、人と接した時に、どのように感じられて、どのように見られて、どのように語りかけ振る舞い、そしてどのよう夢を抱いているのか、これらを包括的に創っていくことが我々の大切にしているフレームワークになります。
TOPIC.5
ブランドアイデアを「Success Activator」に決定した理由
ー ブランドのコンセプトを共同開発して、最終的なブランドアイデアは「Success Activator(サクセス アクティベーター)」に決定しましたが、その理由を教えてください。
山本 - ブランドコンセプトを考えるときにすごく気にしていたのは、ブランドってすごくありがちなのがカッコつけちゃうというか、ハイクラスな存在になりがちなんですが、そうしないということを結構意識していて。我々は中期経営計画で中小企業におけるビジネスチャットNo.1というところを中期の目標とさせていただいていて、中小企業の皆さまにとって1番のビジネスチャットになることが目標なので、そこのコンセプトとのリンクを意識してました。
中小企業の皆さまというと、ハイクラスのブランドで使うというよりかは、本当に現場に役に立つ、現場の助けになるような存在であるべきだろうなと思っていたので、「Success=成功」していただくのは中小企業の皆さまで、我々は「Activator=(成功を)活性化させる存在」であるというところがすごく良いなと思いました。
その「Success Activator」の中にビリーフがあって。1つ目に出ているのが「リスペクト」という言葉があって、ITでDXだというとDXが進んでいないところにDXってどうですかみたいなところがあるんですけど、上からいくのではなくて、中小企業の皆さまがコアビジネスに集中できるようなお手伝いをするのが我々のようなIT企業だと思うので、リスペクトを持って、業務理解をしっかり理解して、インサイトを得る。一緒に考えて成功まで持っていくという、良いものができたなと感じています。
TOPIC.6
各キーワードを生み出す
提案プロセス
ー ビリーフのインスピレーションはどこから湧いてくるのでしょうか。
大島 - LANDOR & FITCHは外資系の会社ではありますが、我々はものすごく体育会系というか。量が質を生むという考えを揺るぎなく持っています。量を吐き出すことで1つのアイデアに固執せず、さまざまな視点、仮説を検討して答えを導き出していきます。プレゼンテーションの時に、無駄なくスマートに出てきたように言ったりもしますが、そこはもう生みの苦しみ。皆で苦しみながらああでもない、こうでもないと試行錯誤していますね(笑)。
TOPIC.7
一般的に他社が採用している分業制とは異なり、 デザイナーやディレクター関係なく、 1チームでコンセプト開発している理由
ー 今回、Chatworkのデザイナーも一緒にワークに参加し、開発プロセスはとても勉強になりました。その中でも新鮮だったのが、一般的なデザイン会社や広告代理店が採用しているような分業制とは異なり、デザイナーやディレクター関係なく、1チームでコンセプトの開発ワークをしていたことです。
大島 - 人間本来で考えた場合、我々のやり方の方が自然なんじゃないかなと思います。先ほど人にもたとえましたが、アイデアを産む時にひとりの人間として右脳と左脳の両方を持っていて、行き来しながら考えていると思います。リズム良く考え、でも途中で詰まり、気分を変えるために違うことして、リフレッシュしたらポーンとアイデアが浮かんできたり。ストラテジーというと戦略担当の視点だけで考え固めてしまい、そこからデザインだからとクリエイティブにバトンを渡すというのは不自然だと思います。我々は戦略のフェーズでもクリエイティブメンバーが一緒に考えるプロセスなので、その中での意見の言い合いに壁は持たない。よく驚かれるのが、クリエイティブが出すものに対してここまで言っていいのか!というくらいデザイナーでないメンバーもどんどん意見をハッキリ言います。そこは当然。それこそがインスピレーションになると信じています。
TOPIC.8
Look & Feel(ビジュアル)の策定にあたり、 どのような手順を踏んだか
ー Look & Feel(ビジュアル)策定にあたり、どのような手順を踏んだのか教えてください。
大島 - 今回どのようにChatworkの皆さんと一緒にやると面白くできるかを考えました。我々はプログラムを考える時に、定型があってそれを毎回そのまま使うわけではありません。やはり1社1社異なるカルチャーを持っているので、どのように共創するかをメンバーで話し合いながら決めていきます。こういうことをしたら驚かれるかもしれない、こんな無茶難題を言ったらどんな反応をするだろうかと、楽しみながらプログラムを作っていきました。
ただし我々が未来永劫ずっと一緒にいるわけではないので、最終的には自走していただけることを目標に、我々が持っているノウハウをどんどんお伝えしながら取り組んでいきました。
具体的には、特に最初がユニークだったと思います。Look & Feelを開発するフェーズなので、それでは早速デザインコンセプトを考えましょうではなく、「Chatworkがもし〜〜の会社だったらどんなことをするのか」と、あえて遠回りするやり方をしました。
具体的には、ホテル業界、エンターテイメント業界などカテゴリーをいくつか設定します。そして自分自身が日常生活で良いと思うブランドをそれぞれのカテゴリーで挙げ、そのブランドがChatworkだとしたら、どのようにブランドを創るかを考えていただきました。我々も社内でやっていて、たとえばシャネルがラーメンを作るとしたら、何味で、どのような器に盛り付けて、それがどのような空間でどのようなサービスをおこなうのかを考えます。たぶん御社のクリエイターは社内にいることから、たくさんの諸事情に縛られて前提を考えすぎてしまう。それを一度ほぐすために「脳のマッサージ」をステップに入れて、2回目から本格的に開発するステップにしました。
TOPIC.9
Look & Feelの提案に対する印象
ー 初回の提案は全部で9案のLook & Feelを作りました。最初の提案があったときの印象を教えてください。
山本 - すごくたくさん出していただきました。ノベルティを作ったらこうとか、方向性が違っていて面白かったです。世界が9つあるみたいな感じに見えて。これを1つ選ぶと全部こういう世界観になっていくだろうとか。イメージしながら、それプロダクトだとどうなっていくんだろう、マーケティングならどうだろうなどをイメージしながら選定させていただきまました。選びがたいので、難しかったです。
最終的に絞り込んだのはお客さんがどう思うか。これを見たときにどう感じるかという視点に絞り込んでいって、現在のLook & Feelを選んだんですけど、面白かったのが役員陣でスッと決まりました。非常に良いものができて良かったです。
TOPIC.10
Look & Feelのコンセプト
「Focus & Create Your Vision」について
ー Look & Feelのコンセプト「Focus & Create Your Vision」は、ユーザーの1人ひとりにフォーカスして、その方々のビジョンを創造していくという想いを込めています。コンセプト決定の背景について説明してください。
山本 - 我々が中期経営計画で掲げている目標が中小企業No.1というところで、現場の人、1人ひとりの方々にしっかりと寄りそうというか。特に我々「国産」のビジネスチャットとして業界理解だったり、顧客理解が圧倒的にできていないといけないんじゃないかなと思っています。グローバルのベンダーが全世界を統一的にやらなきゃいけないというところに対して、我々は日本の中小企業に向けてやれるというところに違いが出るので、そこをブランドとしてもしっかり出したいなというところがあったんですね。
(今回のデザインシステムで作った)フォーカスバブルは、お客様1人ひとりにフォーカスをするところがすごく大事で、日本の中小企業ってそれぞれがバラバラなんですよね。働き方も違えば、考え方も違う、価値観も違うっていう人たちがいて、そこに丁寧にフォーカスしていくっていうのが大事で、かつ目先のことではなく、未来のあるべきってところをしっかり見るっていうビジョンをしっかり(デザインで)見せるっていうところが大事。フォーカスしてビジョンを見せて、そこに(Chatworkが)一緒に寄り添いながらやっていくっていう。我々の考えとかブランドのコンセプトみたいなものが1番表現されたLook & Feelなんじゃないかなと思っています。
写真とフォーカスバブルとイラストでビジュアルを表現する組み合わせが面白いなとか新しいなと思いました。展開としてわりと斬新なものを作っちゃうとそれはそれで面白いけど飽きられやすかったりっていうところがあるんですけど、イラストのテイストを変えたりとか、フォーカスバブルの色を変えたりとか、クリエイティブの応用性っていうところとメッセージ性がバランスいいかなと思って、これがいいじゃん!とわりとすぐに決まりました(笑)。
TOPIC.11
カッコよくなりすぎないを意識?
ー Look & Feelはカッコよくなりすぎないというところを意識していたそうですが、その辺りについて聞かせてください。
大島 - ご提案に際して、デザイナーはどうしても格好良さや洗練さ、日本語ではなく英語を使いたがったりして、そこをできるだけ抑えたつもりでしたが、それでもまだダメだったんですよね(笑)。そこは軌道修正した部分でもありました。
あと、デザイン開発というとことで、デザインというのは丸三角四角という単なる絵ではない。自分たちが表現するデザインがどのように行動に影響を与えるのか。従業員が日々おこなう業務の中で、デザインがいかに後押しとなり、ブランドを牽引する役割になれるのかどうかという点を大切にしています。今回最終的に選ばれたデザインも、単にイラストが可愛いから、楽しそうだから取り入れようという考えではなく、顧客にフォーカスしたときに、その顧客の将来像がどうなるかを担当者にイメージしてもらうことを狙ったものです。イラストをクリエイティブに使おうとする行為自体が、現場の人たちにとって顧客の将来像を考えてもらう1つの仕組みになるので、我々的にはデザインの表現に加えてデザインシステムが非常に重要だと考えています。ただ、システムにこだわり過ぎて魅力が失われてもいけないので、そこは行ったり来たりしながら創り上げていきました。
CHAPTER.3
紆余曲折を経て
決定した「タグライン」
TOPIC.01
タグライン開発のプロセス
ー タグラインの開発はどのようなプロセスを踏んだのか教えてください。
大島 - まずはじめに定義をしっかりと固めて、そこから開発しています。今回大きな壁となったのは、タグラインに込める想いや意味合いに関して、プロダクトの視点とコーポレートの視点とのバランスにありました。我々が最初に考えていたものにズレがあり、探りながら軌道修正をするプロセスとなり、たいへんチャレンジングでした。実際に綺麗ごとではなく、提案に対してダメ出しがあり、我々がより理解を深めてもう一度考え直す。そういうプロセスを踏みながら色々と考えて提案した流れがあります。
TOPIC.02
タグラインの初回提案の印象
ー ダメ出しもあったということですが、最初にタグライン案を見た時の印象はどうでしたか。
山本 - タグラインはLook & Feelとは違って結構難航しました。Look & Feelはどれも良いって感じでしたが、タグラインはどれもピンとこない感じだったんですよね。他の役員も同じで、「強いてあげるならば」というコメントが続きました。
そこから役員の反応を見ながら私としてはちょっとこれは厳しいなと思って、1回全部作り直してもらいました。どうしてそうなったかというと、中小企業の皆さまにわかりやすい表現を突き詰めていくと、言葉がわかりやすくなりすぎてしまったところが正直あったのかなと思っていて。
タグラインって結構難しくて、今までのブランドコンセプトは表には出ないところがあるので、シャープな言葉を使えるんですけど、タグラインって外に出していくものなので、ある程度のお客様が見るということのワードの(選択の)難しさがあります。コンセプトとしての力強さとか、表現としてのエッジの効き方とかそういうところのバランスなども当然考えていらっしゃったと思うんですけど、ちょっと単純になりすぎてて、正直チープになってるというところがあって、もっと深みのある言葉とかワーディングとかあるんじゃないかなと思いました。
私は10年間タグラインのようなものを作っていたこともあったので、もっと良い言葉があるはずだと思っていました。そこを踏まえて他の役員の反応を見ると、もう1回お願いしますというところで、1回全部ガラッと(初回)案がなくなって(笑)。
本当に2回目出していただいた提案はクオリティが違って良かったです。我々のフィードバックをもとに、中小企業の方々に届けたい価値というところを言葉で表現するときにどのあたりに合わせるかをチューニングが一定済んだというところがあって良いねとなって、そこでさらにブラッシュアップして、最終的には2案に絞って、1案に絞って決まっていきました。
TOPIC.3
決定したタグライン
「シゴトがはずむ」を
思いついたきっかけや背景
ー 最終的に決まったタグラインは「シゴトがはずむ」となりました。このワードを思いついたきっかけや背景について聞かせてください。
大島 - たくさんアイデアを出し、その中にある素案を磨いていきました。先ほどお話したコーポレートとプロダクトのバランスになりますが、プロダクトであっても当初コーポレート視点が意識にあったため、考え方だけではなく表現としても少し普遍的で、エッジが効いていない印象がありました。そこは1回目の提案の際にご意見を伺ったことによって軌道修正ができました。見た時の語感というか、印象をより魅力的にするための工夫に苦しみ楽しみながら、この表現は流石に飛び過ぎかなと思う範囲まで広げながら開発していきました。
「シゴトがはずむ」をカタカナとひらがなにした背景は、やはり単語と単語がつながるときに、純粋にそれを見た時に堅苦しく感じるのか、それとも身近に感じるのかというポイントにありました。「仕事」と漢字で書くことで、中小企業の方が見た時に取っ付きにくい印象になるのか、単語を漢字にしたり平仮名にしたり検証しながら、最終的にカタカナと平仮名の組み合わせにしました。これも使う単語とその組み合わせによって印象は異なるので、毎回検証が必要となります。
TOPIC.4
タグライン「シゴトがはずむ」の印象
ー 決定したタグラインの印象はどうでしたか。
山本 - Chatworkのコーポレートミッションが「働くをもっと楽しく、創造的に」なので、目指している世界観というところは、「シゴトがはずむ」って楽しそうじゃないですか。なので、すごく表現できるなと思っていて。ミッションと表現したいことと、タグラインとして表現しなきゃいけないコンセプトって必ずしも一致しないところではあるんですけど、そこが良いバランスになっていて、「シゴト」ってところと、「はずむ」ってところに楽しさとかクリエイティビティみたいなものを感じると思うんですけど、「シゴト」ってところに対して現場感みたいなわかりやすさがあって。
あと、ビジュアルに展開しやすいのが良いと思って。はずんでいるようなビジュアルは相性が良さそうだなと思って。タグラインとしてテキストだけで認識するというよりはビジュアルと組み合わせて使うと非常に面白いタグラインなんじゃないかなと思いました。
CHAPTER.4
今後の「Chatwork」の
ブランディングに向けて
TOPIC.1
今後の「Chatwork」の
ブランディングの展開
ー 「Chatwork」のブランディングについて今後の展開を教えてください。
山本 - (サービスの)ブランドのコンセプトが固まったので、これから既存のものをガラッと変えていくのは時間がかかっていくんですけど、新しく作っていくものに関しては、Webサイトやプロダクト、大きなメインのクリエイティブのようなマーケティングコミュニケーションに反映させていきます。ユーザーさんが「Chatwork」というブランドに接するようなファーストインプレッションのところがすごく大事なので、その辺りになるべく早くブランドイメージを反映できるようなクリエイティブを作っていければなと思っています。それに付随して、何年もかけてブランドを育てていくものだと思っていますので、パッと見ると「Chatwork」らしいよね、っていうところが残るようなものにしていければと思っています。
TOPIC.2
これから公開予定のブランドムービーにもLook & Feelを反映
ー これからブランドムービーの公開も予定していますが、今回開発したLook & Feelが反映されていくのでしょうか。
山本 - そうですね。「Chatwork」というサービスと接する時に世界観を感じていただけるようなものを作っていきたいなと思っています。
TOPIC.3
「Chatwork」の リブランディングを 担当してみての感想
ー 今回「Chatwork」のリブランディングを担当して、総括としての感想を率直に聞かせてください。
大島 - 一言で言うと、とても楽しかったです。楽しく仕事をすることは、とても大切だと考えています。今回は共創のプロセスを取り入れましたが、真剣勝負なのでピリピリするような緊張感は欠かせません。ただ緊張感を持ちながらも、やはり創造する楽しさを常に持ちながら進めないとクリエイティブワークはいけないと思います。時にはダメ出しを受けて、もう一度考え直さねばいけない事もありました。それもプロセスとしては健全で、失敗を恐れずに取り組み、それに対して率直な意見をもらい改善を重ねていく。最終的にはお互いが納得し、愛着を持って良いと思えるものができたので大変良かったと思います。
あとは、今の段階は言ってみれば生み出したばかりの赤ちゃんのようなものなので、先ほど仰っていたように時間をかけて育てていくべきものです。我々的には今ここで見ている生まれたてのブランドが、七五三じゃないですけど、3年、5年経った時に、大きくなった、立派に育ってこんな魅力的になった!と楽しみにしながら、これからもご一緒できるといいなという想いを持っています。
TOPIC.4
LANDOR & FITCHが
手掛けているクライアント
ー ちなみにLANDOR & FITCHは大手のクライアントが多い印象がありますが、私たちみたいなベンチャーもあるのでしょうか。
大島 - もちろんあります!さらには個人で運営している会社さんなどのお手伝いもしています。ちょっと宣伝になってしまいますが、背景に映っているこの黄色の本「事例で学ぶブランディング ランドーのデザイン戦略大公開」を作るときもノウハウやフレームワークをここまで公開して良いのか!と、かなり話題にもなりました。我々的にはノウハウを公開することで自分たちがダメになる(仕事がなくなる)ならそれまでの実力しかないのだと考えています。ノウハウで勝負するよりも、同じものを使っても、生み出すところに1番の力を持っている自信があります。ですので、お声がけいただいたら我々の持つ知見を包み隠さず共有し、同じ想いを持つパートナーとして、ともにブランドに革新をもたらしていきたいと思っています。
TOPIC.5
今回のリブランディングを今後どのように活かしていくべきか
ー 今回のリブランディングを今後どのように活かしていくべきだと思いますか。
大島 - 今回は生み出して終わりではなく、根底となるブランドのプラットフォーム(コンセプト)をしっかりと作っています。実際に制作される方は、毎日携わるために飽きがきて、つい目新しいものを単純に取り入れてしまいがちですが、ブランドコンセプトはブレないようにすること。このブランドプラットフォームをもとにブランドらしさを再確認し、フィルタリング機能としても使っていただけると良いと思います。立ち帰るべきはずのブランドのプラットフォームが、いつの間にか忘れ去られて形骸化しないようにしていただきたいと、その点は強く思います。
山本 - ブランディングに近いものって実は前からやっていたことがあって。こういうガイドラインでやろうよとか、ロゴが変わったタイミングでこうしようよ、みたいなものって何回かやっているんですね。本当に仰る通りで、どんどん形骸化してくるというか、形骸化して守られなくなって時代に合うものは新規で作られていくのはまだマシで、1番よくないのはガイドラインがずっと頑なに守られていく状態になっていたことがあったんですよね。
時代とともにデザインのトレンドって変わっていったり、我々のビジネスって変化していくのに、ルールを守ることが大事になっちゃって、それで違和感が出てしまって。そこにすごく課題があって、ブランドってしっかり守って統一的なイメージ(を作る)っていうのは大事なんですけど、表層的なLook & Feelみたいなものを守るというよりはコンセプトを守るのがまさに仰る通りで、コンセプトを守った上で、今の時代にあったLook & Feelやクリエイティブを作ったり、コミュニケーションを作っていくってことが大事なんですよね。コンセプトは今回しっかり固まったので、今回すごく大きなことは、デザインのガイドラインを納品していただいたというよりは、(ブランドを築いていく)チームを作っていただいたことに大きな意義があって、変化があったと思っているんですね。
そのチームがブランドのコンセプトを大事にしながらクリエイティブを作り出していくというようなケイパビリティを付けてもらったので、そこを中心にチームを育てながら、今BX部(ブランドエクスペリエンス部)が中心ですが、マーケティングであったり、プロダクトのチームへ波及させながら、ブランドを育てることが大事だと思っております。非常に大きな一歩を作っていただいたと感謝しております。
大島 - 我々としては契約云々は置いておき、せっかくご一緒して創ってきましたから、何かあった場合はすぐに声をかけてくれると嬉しいです。契約が切れているから連絡してはいけないとかそういうものではなく、一緒にブランドを創るパートナーとして必要な時に声をかけてもらえる存在でありたいと思います。ぜひこれからも色々な提案をさせていただきたいと思います。
ー こちらこそ、よろしくお願いします。
ということで、以上持ちまして対談取材は終了させていただきます。
どうもありがとうございました!
取材:山田葉月/文:大江ふみえ/動画:大蔵真太郎/写真:海老子川